自社の事業が市場の中でどのような位置にあるか。または、複数ある自社の事業の中で経営的にどの位置にあるか。
これを分析する手法がPPM分析です。PPM分析の概要、メリット・デメリット、有名企業をPPM分析をするとどうなるかといった事例などを紹介します。ぜひ、最後までご覧ください。
PPM分析とは
PPM(Product Portfolio Management)分析とは、複数の事業を経営する企業が、どの事業にどの程度、経営資源を配分するか検討・分析するための手法です。
PPM分析 とは?
PPM分析とはProduct Portfolio Managementの略で、どの事業にどのぐらいの資金を分配するかを検討するためのフレームワークのことをいいます。
市場の成長率と市場の占有率を主たる2軸として設定し、座標に対して事業・製品・サービスを的確に分類することにより、経営資源に関する投資配分が判断できるというものです。
PPM分析では、自社事業を花形(Star)・金のなる木(Cash Cow)・問題児(Problem Child)・負け犬(Dog)の4つのポジションに分けて分析します。
これらの4つのポジションを各々確認することによって、自社事業の将来性を確認することができ、競合他社との売上格差を数値化することが可能になります。
◆関連用語
PPM分析の歴史
PPM分析の手法は、1970年代にアメリカに本社を置く、ボストン・コンサルティング・グループが提唱したものです。 1970年代、アメリカの大企業では事業の多角経営が進んでいました。そこで、どこに経営資源を投入すべきか、という検討でPPM分析が使われました。
今日でも、企業が今後の経営戦略を立てたり、意思決定したりする際に用いられるフレームワークです。経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を最適な事業領域に配分するために使われます。
PPM分析の「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」
PPM分析では、「市場成長率」と「市場占有率」の2軸で経営資源の配分を分析します。この2軸からなる4象限をそれぞれ「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」と分類します。
花形
「花形」の事業領域は市場成長率が高く、かつ市場占有率も高い事業です。市場占有率が高いため利益を出しやすい状況にあります。しかし、市場成長率が高いため、将来競争が激しくなると予想されます。
そのため、この事業領域で優位なポジションを維持するためには積極的な投資が必要です。
金のなる木
「金のなる木」の事業領域は市場成長率が低く、市場占有率が高い事業です。この領域は自社がすでに高い市場占有率を確保しており、今後も新規参入が予想されない事業です。そのため、自社のポジションを確保するために積極的な投資をする必要はありません。
積極的な投資を必要とせず、高い市場占有率から安定的な収益を得られます。まさに「金のなる木」のポジションです。
問題児
「問題児」の事業領域は市場成長率が高く、市場占有率が低い事業です。そのため自社にとって有利なポジションを得るには積極的な投資が必要です。しかし、市場占有率が低いため、利益を得られにくい状況にあります。
また、継続的な投資を続けて市場占有率を高められれば、「花形」の領域の事業に成長できる可能性があります。
負け犬
「負け犬」の事業領域は市場成長率が低く、かつ市場占有率も低い事業です。この領域では利益も成長も望めません。経営判断としては早期に撤退した方がよいと考える事業領域です。
この事業に投資しても成長が望めないため、他の事業に経営資源を配分した方がよいと考えられます。
PPM分析のメリット・デメリット
PPM分析をして既存の事業を見直せば、経営の選択と集中の合理的な判断ができます。また、分析の特性に起因するデメリットもあります。
メリット
PPM分析の主なメリットとしては次のものがあります。
1.自社事業を客観的に判断できる
事業を一旦開始すると、収益があがらなくても撤退する判断は難しいものです。今は収益があがらなくても本当に将来性がないのか、予想できないからです。
PPM分析では「市場成長率」「市場占有率」といった数値で事業を判断できます。事業の状態が判断できれば、その事業に投資するのか撤退するのかの判断が容易になります。
2.経営判断のミスを防ぎやすい
経営判断では各事業の損益を重視します。黒字であれば事業は順調に進んでいるので、再投資しよう。赤字であればその事業は継続困難なので撤退しよう。単純にいうとこのような経営判断です。
しかし実際には、黒字でも伸びしろのない成熟しきったケースもあります。赤字の中にも将来的には可能性を残したものがあります。事業を損益だけで判断すると、もう必要のない事業に投資をしたり、将来性のある事業から撤退したりしてしまうこともあるのです。
もちろん、各事業の損益などは重要な経営判断の材料です。加えて、PPM分析など事業を違う角度からみることで、事業の違う側面がみられます。これにより、経営判断のミスを防ぐ効果も期待できます。
デメリット
PPM分析のデメリットとしては次のものがあります。
1.各事業全体の関係を把握できない
PPM分析は、ひとつの事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」に分類します。そして、この分類がその事業に投資するか撤退するかなど経営判断の材料になるのです。実際には事業間同士が深く連係していることもあります。PPM分析の限界は、事業同士の連係を考慮できないところです。
たとえば「負け犬」に分類されている事業が間接的に「花形」や「金のなる木」に影響を与えているケースもあります。この場合、「負け犬」の事業を撤退させることで、「花形」や「金のなる木」の事業収益に影響を与えてしまうこともあります。
2.指標により結果が変わりやすい
市場成長率と市場占有率を使って分析することがPPM分析の特徴です。しかし、これらの数字に絶対的なものはなく、さまざまなデータから抽出された数値を使います。そのため、指標が変わることで結果が変わることを考慮し、慎重に指標を選ぶ必要があります。
3.画期的なイノベーションが生まれにくい
PPM分析は、市場成長率と市場占有率を使って経営判断をするための手法です。市場占有率が低い「問題児」や「負け犬」の事業領域には積極的な投資を控えるでしょう。しかし、このような領域にベンチャー企業が参入し、市場を独占してしまうことはよくあることです。
PPM分析は既存のビジネスの分析には向いています。しかし、イノベーションのような数字・指標で計れないことには、向いていません。
PPM分析のやり方
PPM分析は図表で行います。また、他の事業との比較を容易にするために売り上げをバブル(円)の大きさで示します。
市場成長率の計算方法
市場成長率はその事業の属する市場が、前年度からどれくらい成長しているか計算します。
市場成長率=今年度の市場規模/前年度の市場規模 |
なお、市場規模のデータは公的機関や民間のシンクタンクから入手できます。
相対的市場占有率の計算方法
相対的市場規模とは、自社を除くシェア第1位の企業を基準に計算します。
相対的市場占有率=自社事業のシェア/自社を除く第1位の企業シェア |
相対的市場占有率が1以上であれば、自社事業シェアがトップ。1であれば自社と他社が同じシェアにある。1以下であれば他社のシェアが高いことを示します。
自社の事業をPPM分析してみる
自社のそれぞれの事業について、y軸を市場成長率、x軸を相対的市場占有率としてプロットします。そのプロットした点の上に売り上げの大きさに比例したバブルを描きます。
この図表を作ることで、各事業が「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」のどのエリアに位置しているかわかるわけです。
また、バブルの大きさでその事業がどれだけの売り上げを出しているか視覚的にもわかります。
PPM分析の事例
PPM分析の事例をいくつか紹介します。
任天堂のPPM分析
任天堂はご存じの通り、ファミリーコンピュータに始まり、近年の「Wii」や「Nintendo Switch」など独自のハードウェアに加え、さらには「スーパーマリオ」「あつまれ どうぶつの森」「スプラトゥーン」などの開発、製造、販売を手掛ける企業です。
戦略の特徴は、ハードウェア事業に関しては、常にブルー・オーシャン市場を開拓している点にあるといえます。
2021年度にハード・ソフト一体型のNintendo Switchの販売台数は過去最高を記録していますが、半導体不足による影響で2022年度はハードウェアの売上が減少しています。
今後はマーチャンダイズ、体験型施設、店舗、テーマパーク、モバイル、映像など任天堂IPに触れる人口を拡大する取り組みを行いつつ、技術開発への投資も続けていくということでした。
参考資料:任天堂の経営方針
キヤノンのPPM分析
キヤノンは、一眼レフカメラ・コンパクトデジカメ・ファクシミリ・プリンタなどの製造販売をしています。
従来の主力であった一眼レフカメラ・コンパクトデジカメなどのカメラ事業は、スマートフォンの普及により市場規模が大幅に縮小しました。結果として、この事業は「負け犬」に。一方で各家庭へのパソコンの普及もあり、プリンタは市場が成長しました。また、市場占有率も高いため、「花形」のポジションです。
しかし、家庭用プリンタはエプソンとシェアが拮抗しているため「問題児」にならないように、追加の投資が必要になるでしょう。
▶キヤノンマーケティングジャパン株式会社の企業データはこちらから
ソニーのPPM分析
ソニーはかつて国内外で大きなシェアを持つAV機器のメーカーでした。しかし、AV機器の業績は落ち込んでいきました。かつての「金のなる木」や「花形」が、「負け犬」に転落したわけです。
「負け犬」になった事業は売却や規模を縮小させました。そして、その資源をゲームやネットワークサービスなどの「花形」に配分させたことで、業績回復に成功しました。
まとめ
PPM分析は自社の複数ある事業のうち、どの事業に投資すべきか・撤退すべきか判断する経営手法です。シンプルな考え方で「市場成長率」と「市場占有率」からその事業のポジションを判断します。それらは「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」に分類されます。
PPM分析のメリットは、自社事業の立ち位置・競合他社の立ち位置が明確にわかることです。一方、デメリットは限られた財務データのみを用いて分析しているため、必ずしも事業の全体像を把握していないことです。
そのため、PPM分析の弱点を補うため、他の分析方法も組み合わせるといいでしょう。
●任天堂の事業を例に3C分析を解説します
●外部環境分析に役立つPEST分析もわかりやすく解説
●ユニクロの事業をもとにSTP分析を解説します
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