時代の変化を見極める環境分析に適したフレームワークが「PEST分析」です。モノや情報が溢れている現代では、市場の動向を見極めたうえで、成果につながる事業戦略を立案する必要があります。他社と差別化を図り独自性をアピールすることも重要です。
そこで今回は、PEST分析の意味、PEST分析の重要性や具体的な分析方法、分析事例などについて詳しく解説していきます。
PEST分析とは何なのか?
PEST分析 とは?
PEST分析とは、自社を取り巻くマクロな外部環境とそれらが自社へ与える影響を考察するための分析方法のひとつです。
アメリカの経営学者でマーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー博士によって提唱されました。
外部環境はミクロ環境とマクロ環境に分けられ、そのうちマクロ環境は自社でコントロールができないものとされます。
PEST分析では、具体的にPolitics(政治的要因)、Economy(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)の4つがマクロな環境要因として分析され、変化するそれらの環境の中で、自社事業の位置付けを確認したり戦略の方向性を練るために使われます。
◆関連用語
PEST分析とは、自社を取り巻くマクロ環境の分析に使うマーケティングのフレームワークです。「マクロ環境」とは自社に影響を与える外的要因のことを指しますが、PEST分析に関わるマクロ環境はどれも規模が大きく、変化が起きることでの周囲への影響も大きいことがわかります。
この手法はアメリカの経営学者フィリップ・コトラー氏が提唱したことで広まりました。
PEST分析の必要性
マクロ環境は常に変化しており、自社でコントロールすることはできません。しかし、PEST分析によってマクロ環境を正確に把握できれば、時代に即した商品やマーケティング戦略の展開が可能になります。成功した企業や商品が、世の中の変化やトレンドを味方につけていることからも明白でしよう。
なお、PEST分析は現状の営業・マーケティング運営に限らず「新事業への着手時」や「既存ビジネスの転換時」など、さまざまなシーンで必要になります。
PEST分析で理解しておきたい「4つの要素」
PEST分析に用いる4つの要素の内容を詳しく見ていきましょう。
- Politics(政治)
- Economy(経済)
- Society(社会)
- Technology(技術)
Politics(政治)
Politicsという単語は直訳すると「政治」という意味ですが、PEST分析におけるPoliticsは政治そのものではなく、「市場のルールを変えるもの」が対象になります。
- 法律や制度の規制
- 政権交代
- 税制
- 公的支援制度
- 国際的な政治動向
など
いずれも国や地方自治体レベルの決定事項ですが、そのなかでも自社に大きな影響を与えそうな事項の動きを把握することが大切です。例えば飲食店なら受動喫煙防止条例の動向、大企業なら法人税などが考えられるでしょう。
ただ、一見ネガティブに捉えられる要因でも、捉え方の方向性を変えると自社には有利に働くケースもあるため、柔軟な視点で分析することが重要です。
Economy(経済)
Economyは、「景気や経済状況など市場における価格に影響を与えるもの」が対象になります。
- 景気動向
- 消費動向
- 株式・為替の動向
- 金利の変動
- 物価の変動
- 経済成長率
など
経済環境は複数の要因で変化するため、表面的な数字だけでなく、変化の背景にも着目して分析を行いたいところです。
Society(社会)
Societyは「消費者のニーズやライフスタイルに関連するもの」が対象となります。
- 人口数
- 人口密度
- 世帯構成
- 流行
- 社会問題
- 世論
- 風潮
など
社会的な要因は消費行動に大きな影響を与えます。新型コロナウイルス感染症の影響によるデリバリーサービスのシェア拡大は、身近な例として挙げられるでしょう。このような変化を迅速に察知することで、効果的なマーケティングが行えるようになります。
Technology(技術)
Technology は「商品開発や事業の進め方に影響を与えるもの」が対象となります。
- ITインフラの整備
- ビッグデータやAIの活用
- 技術開発
- 代替技術の出現
など
技術革新の流れに適応した経営戦略や事業戦略の構築は、他社との差別化にもつながります。
PEST分析はどう進めるべき?4つの導入ステップ
ここからは、PEST分析の進め方を4つのステップに分けてご紹介していきます。
1.分析の目的を明確にする
分析結果を活かすためには、事前に目的を明確にしなければいけません。分析の主な目的としては、次のようなものが考えられます。
- 経営戦略の見直し
- 新商品や新サービスの開発
- 将来の事業展開に向けた社会動向の情報収集
など
抱えている課題や置かれている環境によっても目的は異なりますが、社会全体を俯瞰するマクロな視点で目的を設定することが重要です。
2.自社に関連するマクロ環境を洗い出し、分類する
自社を取り巻く環境を、4つの要素(PEST)に分類します。分類する際には「事実」と「解釈」を混同しないように注意しましょう。見る人によって捉え方や考え方が変わる「解釈」と、データなどの事実情報は別物です。想定できる背景や可能性も「事実」とは明確に分ける必要があります。
3.各要素を「機会」と「脅威」に区別する
PESTに分類した要素を「機会(チャンス)」と「脅威(リスク)」に分類します。チャンスはリスクにもなり、リスクがチャンスになることもあるため、多角的な考察が求められます。
なお、機会と脅威のどちらでもない要素は「その他」として分類しておきましょう。
4.時間軸の把握と分析結果の実行
次に、分類した機会と脅威の時間軸を明確にします。短期的な課題なのか、長期間に渡って取り組むべきなのかを把握できなければ、マーケティング施策を立案する際に社内認識が統一できません。
時間軸を統一したら、その分析結果をマーケティング戦略に落とし込み、実行しましょう。
PEST分析の事例
ここからは、自動車業界と食品メーカーにおけるPEST分析の事例をご紹介していきます。
実際にどのような分析をすればよいのか、分析結果から何を予測すればよいのかなどについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
自動車業界におけるPEST分析の事例
自動車業界では、次のようなPEST分析ができます。
Politics(政治) | 2030年代にガソリン車が廃止される予定 |
Economy(経済) | 自動車市場全体は縮小しているが軽自動車の需要は伸びている |
Society(社会) | 若年層の車離れが進んでいる |
Technology(技術) | 自動運転技術の開発 |
この分析結果から、次のような予想が立てられます。
- 電気自動車が一般化される
- 新たな移動手段を確立する必要がある
- カーシェアリング分野の成長拡大が予想される
電気自動車の開発競争は激化しているため、シェアリングサービスや新たな移動サービスに注力したマーケティング戦略を立案してもいいでしょう。
食品メーカーにおけるPEST分析の事例
食品メーカーでは、次のようなPEST分析ができます。
Politics(政治) | 食品衛生法の改正に注視する |
Economy(経済) | 材料費が高騰している |
Society(社会) | 健康志向な消費者が増えている |
Technology(技術) | 生産の効率化が進んでいる |
この分析結果から、次のような予想が立てられます。
- 原材料やパッケージを変える必要性が生じる可能性
- カロリーゼロや特保指定製品の開発が求められる
- 新たな機械を導入してさらにコストを削減する
このような分析結果をマーケティング戦略に応用すれば、社会の動向や消費者のニーズを満たす商品を製造しながら、コストの削減につなげることもできます。
PEST分析とは?まとめ
PEST分析は、政治・経済・社会・技術の4つの視点を使う、マーケティングマクロ環境分析には欠かせないフレームワークです。頻繁に分析をする必要はありませんが、新規事業の展開や新商品のリリースなど、業界に変化が起きた際に分析をすると、チャンスにつながるかもしれません。
長期トレンドを正確に予測するのは困難ですが、PEST分析を行うことでマクロ環境の変化に対して積極的に行動できるようになる可能性は高まります。今後は、分析結果から世の中の流れや市場の動向を感じ取り、ニーズに合った商品やサービスを提供できる企業が生き残るようになるでしょう。
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